出港
ドラの音が聞こえてくると、出港が間近にせまっていることがわかります。
客室を出て、右舷のプロムナードに向かいます。
通路に出ると、スチュワードがドラを鳴らしながら歩いています。
昔から続いている出港の合図です。
「本船は間もなく出港いたしますので、りの方は下船くださいますよう・・・」
とアナウンスも繰り返されます。
もう右舷のプロムナードは人がいっぱいになっています。
岸壁に並んだ赤い制服のブラスバンドが、軽快なマーチを演奏して見送ります。
だれかが手渡された紙テープを1本、送る人に向けて投げると、堰を切ったように、赤や青や白や紫のテープが舷側からこぼれ落ちていきます。
しかし、プロムナードは船の4階、高さにして水面から12メートルはあるから、テープをわたしたい人に届けるのは、なかなか難しいです。
海風が流れ落ちるテープを空に舞わせます。
全長150メートルを越えるテープの滝。
岸壁で遊んでいた子どもが、テープを身体に巻きつけて楽しそうにしています。
曲が「蛍の光」に変わったら、いよいよ港を離れるとき。
汽笛が野太い声をあげ、船は自分の力で横に動き、岸壁との間に青黒い海の溝ができます。
その溝はどんどん大きくなって、船と岸をつなぐテープを切っていきます。
岸壁から数十メートルの距離になると、船は船首を湾口に向けます。
出港。
巨体は加速すると驚くほどの速さで、岸壁の人影を小さくし、もう顔もわからないほどの距離となります。
ひたすら手を振りつづけます。
東京タワーがビルの間から、乗客を送っています。



